再逮捕 その1



報道等で用いられる言葉が,法律で用いられている言葉と違っていたり,法的な議論をする際に用いるのと違う意味で使用されている例というのはたまにあります。

このような例で,私(に限らず,多くの法律専門家がそうだと思いますが)が一番最初に思いつく例は,刑事裁判に関する報道で用いられる「○○被告」という言葉です。

「被告」というのは,民事裁判で訴えられた人をさす言葉です。刑事裁判で起訴された人のことは,刑事訴訟法その他の法律で「被告人(ひこくにん)」と定められていて,「被告」とは定められていないのです。

「人」を付けるか,付けないかの違いなのだから,どうせなら正確に「被告人」と表現すればいいのにと思うのですが,そのようになる気配は感じられません。

そして,法律専門家で,刑事裁判で起訴された人のことを「被告」と表現する人は,ほとんどいないと言ってよいと思います。(ただ,「国民に分かりやすい刑事裁判」をめざして,報道での用語法に合わせて,敢えて「被告」と表現する例はあるかも知れません。)

ところで,「再逮捕」という言葉もよく報道において使われていると思いますが,報道で「再逮捕」という言葉が使用される場合は,ほとんどの場合,「同じ人が,先に逮捕された事件とは,別の事件の疑いをかけられて逮捕される場合」のことを指しています。

「再逮捕」という言葉は,刑事訴訟法には出てこないのですが,刑事訴訟法の議論をする場合の「再逮捕」とは,上述のような意味ではなく,「同じ人を,先に逮捕したのと同じ事件で再び逮捕する」ことを意味するとされています。

つまり,報道等で用いられている「再逮捕」の「再」とは,「同じ人を再び逮捕する」という意味合いでの「再」であるのに対して,刑事訴訟法の議論をするときの「再逮捕」の「再」とは,「同じ人を再び」だけでなく,「同じ事件で再び」という意味合いも含めた「再」であるといえます。

したがって,「再逮捕」についてという言葉は,報道で用いられているのと,法的議論で用いられる場合とで,意味が違って使用されている例だと言えます。

しかし,多くの法律実務家は,刑事裁判で起訴された人のことを「被告」と呼ばないのと違って,「再逮捕」という言葉については,むしろ報道等で用いられている意味,すなわち,「同じ人が,先に逮捕された事件とは,別の事件の疑いをかけられて逮捕される場合」という意味合いで使っています。

これは,法律実務においては,実際圧倒的に「同じ人が,先に逮捕された事件とは,別の事件の疑いをかけられて逮捕される」場面が多く,このような場合を指す言葉として「再逮捕」という言葉が便利だからです。

圧倒的に「同じ人が,先に逮捕された事件とは,別の事件の疑いをかけられて逮捕される」場面が多いのであれば,刑事訴訟法の議論をする際も,「再逮捕」という言葉はその場面を指すものとして使えば良さそうなものなのに,刑事訴訟法の議論をするときには「再逮捕」をその場面を指すものとして使わないのは何故でしょうか?

このことについては,また別の機会に触れたいと思います。


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