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再逮捕 その2



刑事訴訟法の議論をする際には,実務上圧倒的に多い「同じ人が,先に逮捕された事件とは,別の事件の疑いをかけられて逮捕される」場面を意味するものとしては「再逮捕」という言葉を使わない理由について考えてみたいと思います。

逮捕や勾留(こうりゅう:簡単にいうと逮捕に引き続いて一定期間行われる身柄拘束)については,「事件」(犯罪事実)ごとに,その要件や効果を考えていくものとされています。したがって,「同じ人が,先に逮捕された事件とは,別の事件の疑いをかけられて逮捕される」場合,「先に逮捕された事件」とは「別の事件」については,改めて逮捕の要件を満たすのであれば,逮捕は基本的に許されると考えられるため,「同じ人が,先に逮捕された事件とは,別の事件の疑いをかけられて逮捕される」場面について,あまり議論すべき点はないために,この場面を指し示す言葉は,刑事訴訟法の議論では必ずしも必要ではないと言えます。

一方,「同じ人を,先に逮捕したのと同じ事件で再び逮捕する」ことは,これを無条件に許してしまえば,逮捕について時間制限(警察が逮捕状により逮捕したときは,原則として48時間以内に検察官に送致する手続をとらなければならず,これをしない場合は直ちに釈放しなければならない)が設けられていることをすり抜けるための手口として使われかねないことから,これを許してよいのかどうか,許されるとしてどのような場合なのかについてきちんと議論する必要があります。

そこで,刑事訴訟法の議論においては,「同じ人を,先に逮捕したのと同じ事件で再び逮捕する」ことを「再逮捕」と呼んだ上で,これを原則として許すべきではないという考え方を「再逮捕禁止の原則」と呼んで,あれこれ議論する訳です。

ところで,逮捕や勾留については,「事件」(犯罪事実)ごとに,その要件や効果を考えていく以上,同じ人について,逮捕や勾留が二重にされる場合があります。

いささかタイミングを失してしまったのですが,6月下旬に,都内の小学校の校門前の路上で、下校中の児童らが刃物を持った者に切りつけられた事件がありましたが,この事件を起こしたと疑われている者は,まず,「刃物を持っていた」ということで,その事件の日の内に,銃刀法違反で現行犯逮捕されましたが,翌日,殺人未遂で別途「再逮捕」(これはマスコミ等の用語法)されました。

この事件の場合,銃刀法違反の件で勾留までされたのかは,報道を見る限りはっきりしないのですが,おそらくは,①銃刀法違反で逮捕,②銃刀法違反で勾留,③殺人未遂で逮捕,④殺人未遂で勾留というように手続が進んだと思われ,そうだとすると,②と④の「勾留」が同じ人に二重にされていることになります。

既に銃刀法違反で勾留していて,身柄が確保できているのだから,改めて殺人未遂で勾留するのは無駄ではないかと思われるかもしれませんが,逮捕や勾留については,「事件」(犯罪事実)ごとに,その要件や効果を考えていくという考え方によれば,殺人未遂でも勾留しておかないと,銃刀法違反で勾留の必要がなくなった場合には,釈放しなければならないとか,殺人未遂の取り調べに不都合を生じる(弁護士の立場からは,逮捕や勾留の効果を取り調べに及ぼすことは批判的に捉えられますが,この点についてはまた機会があれば書きたいと思います)といったことがあり,同じ人間について,事件が異なる「二つ」の勾留をすることに意味はあるといえるのです。

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