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NHK受信料判決



職業柄,報道等で「判決」と見聞きすると,興味が湧き,また弁護士同士でもその報道を話題にすることが多いのですが,その報道を見ただけでは,判決の内容や理論構成がわからないこともまた多いものです。

6月27日に横浜地裁相模原支部で言い渡されたという,NHKの受信料に関する判決も,報道を見ただけでは,分からない部分があります。

この報道によれば,「契約書を交わしていなくても裁判所の判決で受信契約が成立する」という初の判断を示し,男性に契約締結と過去約4年分の受信料10万9640円の支払いを命じた。」とされています。

ところで,NHKの受信料は,放送法の64条に根拠があるようであり,その条文は以下のようになっています(「協会」とはNHKのことです)。

    第64条

  1. 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であって、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第百二十六条第一項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。
  2. 協会は、あらかじめ、総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ、前項本文の規定により契約を締結した者から徴収する受信料を免除してはならない。

(以下省略)

この第1項により,受信設備を設置したら,その設置した人に「NHKと受信契約をする義務」が生じることになり,その義務に応じて,NHKと受信契約を締結したら,その人はNHKに受信料を支払う義務が生じ,その受信料支払い義務は基本的に免除することは出来ない(第2項),というように読むことが可能であるように解釈されます。

そうなると,受信料の支払い義務が生じるのは,あくまで「受信契約を締結した後」ということになるはずで,「契約する義務はあるが,その義務に応じていない」時点では,受信契約は未締結(未成立)なので,受信料の支払い義務も生じていないというのが基本的な考え方でしょう。

そして,今回の判決は,「受信契約を締結(成立)した」といえる場面を,契約書のとり交わしに限定せず,「裁判所の判決がある場合」としたという点に目新しさがあるということになろうと思います。

最初に「報道を見ただけでは,分からない部分がある」と書きましたが,この判決に関する報道でいえば,①どのような理論構成で「裁判所の判決があれば,受信契約が成立した」と結論づけたのかの点,②どのような理論構成で「過去約4年分の受信料10万9640円」の支払いを命じたのかの点がよく分かりません。

①については,今回の訴訟で,NHKの側が「受信契約を承諾(申込み?)せよ」というような意思表示を求めて,これが認められたのかもしれません。

②については,先ほども書いたように,受信料の支払い義務が生じるのは,あくまでも受信契約の締結(成立)の後と考えるのが自然なので,「過去約4年間の受信料」の支払いを命じるには,4年前に既に受信契約が成立したと構成するか(この点は①の構成の仕方にもよると思います),もしくは「受信料の支払い義務が生じるのは,あくまでも受信契約の締結(成立)の後と考えるのが自然」という前提自体で異なる考え方をしているのかもしれません。

①②について,別に考えられるのは,既に4年前に「裁判所の判決」が存在し,それに基づく契約の成立を今回確認し(①の点),したがって,4年前に成立した受信契約に基づいて,4年分の受信料の支払いを命じた(②の点)ということです。

これらの点は,判決自体にあたるのが一番なので,どこかで入手できたらまたそこでわかったことなどを書きたいと思います。

実際のところは判決にあたってみないとわからないのですが,「判決」という報道に接したときに弁護士がどのようにその報道を見て,考えているのかの一端のご紹介という趣旨で理解して頂ければ幸いです。

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