国選弁護と私選弁護



最近,ネットの広告で法律事務所のものが非常に目に付きます。

かつては,法律事務所の広告といえば,借金問題や離婚などの家庭問題のものが目立っていましたが,最近1年くらいは刑事弁護に関する広告が目立つようになった気がしています。

その中で,「国選弁護人に任せていては不安だが,私選弁護を私どもに任せてもらえれば安心」といった内容の広告も散見されます。

そこで,国選弁護と私選弁護の差異について私が感じたり考えたりしていることを書きたいと思います。

国選弁護人というのは,文字通り,国(裁判所)が選任した弁護人のことで,貧困その他の理由により私選弁護人がつけられない被疑者(犯罪をしたと疑われている人で刑事裁判になる前の人)や被告人(犯罪をしたと疑われて刑事裁判を起こされた<起訴された>人)に選任されます。

この場合,「この弁護士を国選弁護人にしてください。」という被疑者・被告人の選択権は法律上はないこと,また,一旦選任されれば,被疑者・被告人がその弁護士をクビにすることも出来ませんし(ただ,私選弁護人を選任すれば国選弁護人は解任されます),弁護士の側から「こんな人の弁護なんて,やってられない。」と言って辞めることも基本的には出来ません。

一方で,私選弁護人の場合は,好きな弁護士を選べますし,被疑者・被告人の方からクビにするのも弁護士が辞めるのも基本的には自由だと言えます。

そして,費用ですが,国選弁護と私選弁護を比較すれば,弁護士が頂くフィーは後者の方が相当高いといえますし,国選弁護の場合は,そもそも被疑者・被告人が自分で負担しなくてよい場合が多々あります。

このように,被疑者・被告人の側から見れば,場合によっては弁護士費用がタダであり,弁護士の側から見れば,受け取れるフィーが安いということで,国選弁護は何だか「安かろう,悪かろう」のようにみえて,そのために「国選弁護人に任せていては不安だが,私選弁護を私どもに任せてもらえれば安心」といった広告が幅を利かせるのかもしれません。

実際,被疑者・被告人の中には、自分の弁護人が国選弁護人であるということに引け目を感じている方もいるようで,時々「国選なのに,勝手なことを言ってすみません。」みたいなことを言われることもあります。

しかし,私としては,国選弁護と私選弁護の違いは,「自由に選べるか否か」の点に尽きるのではないかと思っています。

私選弁護の方がフィーが高いのは,「自由に選べる」ことへの対価であって,「国選弁護以上に熱心に仕事をする」ことではないというのが私の考え方です。

似た例(といってよいか分かりませんが)で言えば,美容院に行ったときに,美容師さんを指名すると,指名料が必要な場合があると思いますが,その指名料に似ていると思います。

指名ではないお客さんだからといって,美容師さんが手を抜くことが(多分)ないのと同じく,私は国選弁護でも私選弁護でも,弁護活動として最善を尽くすという考えです。

それなら,何も高い金を払って私選弁護人に頼む必要などないと思われるかも知れません。

確かにそのとおりとも言えますが,先ほどの美容師さんの例で,「どうも相性があわないなあ。」というような場合もあるのと同様に,弁護士とも相性の合う,合わないがあるといえます。

また,美容師さんがいくら一生懸命やってくれても「どうも腕が悪いなあ・・・」と感じることがあるのと同様に,弁護士にも腕や経験の差があるのはいかんとも否定しがたい事実ですから,そのような場合には,私選弁護人に委ねることの意味があると言ってよいかも知れません。

その意味で,「国選弁護人に任せていては不安だが,私選弁護を私どもに任せてもらえれば安心」というのは,「国選弁護人」一般について言うならミスリードではあるが,国選弁護人ではなく,私選弁護人を選任した方がよい場合があるという意味では間違いとまでは言えない,というのが私の考えです。

ただ,私選弁護人を選任するとしても,広告で刑事弁護のスペシャリストを名乗って「私選弁護を私どもに任せてもらえれば安心」と言っている弁護士に任せて本当に安心なのかどうか,国選弁護ではなく私選弁護にするだけの価値があるのかどうかは分かりませんので,あしからず。


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