報道された事例から考える刑事弁護の一場面



ゴールデンウイークの最中でしたが,「紙おむつを保管している倉庫の鍵を壊して侵入し,中にいた男性2人ともみ合いになり,軽傷を負わせた疑いで男性が逮捕された。この倉庫では,先月上旬,紙おむつが盗まれる被害が2度あり,男性2人が倉庫内で張り込みをしていたところであった。逮捕された男性は容疑を認めていて,警察で侵入の目的や過去の盗難との関連を調べている。」というニュースが報道されていました。

このニュースが全国ニュースで報道され,また,ネットの「映像ニュースアクセスランキング」でも上位にあるのは,「紙おむつ」というのが目新しかったせいでしょうか?

 

それはさておき,この報道では,逮捕された男性の「罪名」が報じられておりませんでした。

建造物侵入の成立は間違いなさそうですが,「中にいた男性2人ともみ合いになり,軽傷を負わせた」ことがどう評価されるかが問題になります。

単に「ケガをさせた」ということだけを捉えるなら,傷害罪ということになります。

しかし,刑法238条に「事後強盗罪」というものがあり,ここでは

「窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。」

と定められていますので,この男が「窃盗」と評価できるならば,「逮捕を免れる・・ために暴行した」として,「強盗」となる可能性があります。

「強盗」となると,今度は,刑法240条の「強盗致傷罪等」が登場し,

「強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。」

という規定によって,この男性が「中にいた男性2人ともみ合いになり,軽傷を負わせた」行為は,強盗致傷罪として,「無期又は六年以上の懲役」という重罪になる可能性もあることになります。

したがって,この男性がした行為が「窃盗」と評価できれば「事後強盗」となる余地が出て,さらに事後強盗犯が人を負傷させたということで「強盗致傷」となる可能性が出てくるという,二階級特進のような構造で重罪となるので,まずは「窃盗」と評価できるかがどうかが非常に重要ということになります。

 

上記報道の内容をまとめると,以下のようになります。

① この男性が「この倉庫では先月上旬,紙おむつが盗まれる被害が2度あった」ことに関与している可能性はあるが,現時点ではこの点はよくわからない(この点について確定的な報道はされていない)。

② 今回,「紙おむつ」を盗む目的があったのかどうかが不明である(この点について確定的な報道はされていない)。

③ 仮にその目的があったとして,実際に盗んだのか,盗もうとした行為があったのか,単に倉庫に入った段階で「倉庫内で張り込みをしていた男性2名」に見つかってしまったのかがが不明である((この点について確定的な報道はされていない)。

 

この事例から離れて,「あの家に侵入してお金を盗もう」と考え,実際にその行動に移した人が,どの時点で「窃盗罪」が成立する(窃盗の着手時期はいつ)かについては,「侵入だけでは窃盗の着手は認められず,遅くとも財物の物色行為のあった時点では着手が認められる」とされています。そこで,一般には,「じゃあ,その「物色行為」をどの時点で認めるか?」というように考えていくことになります。

ところが,普通の住宅ではなく,土蔵や金庫室,倉庫などに侵入しての窃盗の場合は,「そこへの侵入行為に着手した時点で窃盗の着手を認める」とされているようです。それは,「これらの建物は,通常は財物を保管するためだけに用いられるものなので,侵入行為があった時点で,その保管されている財物がとられる危険が現実化しているから」とされます。

 

今回は「倉庫」に侵入したということで,仮に,今回逮捕された男性が,「紙おむつ」を盗む目的があったとすれば,倉庫に入ったことだけで,「窃盗」に着手があったということになり,先に書いた「2階級特進」構造で強盗致傷となる可能性が出てくることになります。

そうなると,「紙おむつを盗む目的があったかどうか」が非常に重要となる(ここがクリアーされれば,先述③の点は,今回の罪名の成立という観点に限って言えば重要性は低くなる)ので,この点に関しての取り調べが慎重になされる筈ですし,弁護人が就けばここをポイントの一つと捉えることになるでしょう。しかし,「紙おむつを盗む目的がありませんでした」と言っても,「ならなんでそこに侵入したのか?」を具体的に説得的に説明できないと,なかなか厳しいものがあるでしょう。更に,「この倉庫では先月上旬,紙おむつが盗まれる被害が2度あった」ことがこの男性の行為だったと仮になれば,「今回は違う目的だった」とは,なかなかならないでしょう(だから,「この倉庫では先月上旬,紙おむつが盗まれる被害が2度あった」ことへの関与もポイントの一つになるでしょう)。

 

では「窃盗」と認められてしまえば,先に書いた「2階級特進」構造で強盗致傷と,必ずなるのかといえば,そうでは必ずしもなく,例えば「事後強盗と言えるほどの強い「暴行」はなかった」として,事後強盗の成立は認めないとか,他にも検討すべきポイントもあると言えます。

このように,犯罪の成立に関しては,ポイントとなる点がいくつかあって,これを意識しながら,被疑者の方と話しをするなどして,採るべき方策を考えるのが刑事弁護の一場面だと言えます。


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