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Monthly Archives: 6月 2013

NHK受信料判決



職業柄,報道等で「判決」と見聞きすると,興味が湧き,また弁護士同士でもその報道を話題にすることが多いのですが,その報道を見ただけでは,判決の内容や理論構成がわからないこともまた多いものです。

6月27日に横浜地裁相模原支部で言い渡されたという,NHKの受信料に関する判決も,報道を見ただけでは,分からない部分があります。

この報道によれば,「契約書を交わしていなくても裁判所の判決で受信契約が成立する」という初の判断を示し,男性に契約締結と過去約4年分の受信料10万9640円の支払いを命じた。」とされています。

ところで,NHKの受信料は,放送法の64条に根拠があるようであり,その条文は以下のようになっています(「協会」とはNHKのことです)。

    第64条

  1. 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であって、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第百二十六条第一項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。
  2. 協会は、あらかじめ、総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ、前項本文の規定により契約を締結した者から徴収する受信料を免除してはならない。

(以下省略)

この第1項により,受信設備を設置したら,その設置した人に「NHKと受信契約をする義務」が生じることになり,その義務に応じて,NHKと受信契約を締結したら,その人はNHKに受信料を支払う義務が生じ,その受信料支払い義務は基本的に免除することは出来ない(第2項),というように読むことが可能であるように解釈されます。

そうなると,受信料の支払い義務が生じるのは,あくまで「受信契約を締結した後」ということになるはずで,「契約する義務はあるが,その義務に応じていない」時点では,受信契約は未締結(未成立)なので,受信料の支払い義務も生じていないというのが基本的な考え方でしょう。

そして,今回の判決は,「受信契約を締結(成立)した」といえる場面を,契約書のとり交わしに限定せず,「裁判所の判決がある場合」としたという点に目新しさがあるということになろうと思います。

最初に「報道を見ただけでは,分からない部分がある」と書きましたが,この判決に関する報道でいえば,①どのような理論構成で「裁判所の判決があれば,受信契約が成立した」と結論づけたのかの点,②どのような理論構成で「過去約4年分の受信料10万9640円」の支払いを命じたのかの点がよく分かりません。

①については,今回の訴訟で,NHKの側が「受信契約を承諾(申込み?)せよ」というような意思表示を求めて,これが認められたのかもしれません。

②については,先ほども書いたように,受信料の支払い義務が生じるのは,あくまでも受信契約の締結(成立)の後と考えるのが自然なので,「過去約4年間の受信料」の支払いを命じるには,4年前に既に受信契約が成立したと構成するか(この点は①の構成の仕方にもよると思います),もしくは「受信料の支払い義務が生じるのは,あくまでも受信契約の締結(成立)の後と考えるのが自然」という前提自体で異なる考え方をしているのかもしれません。

①②について,別に考えられるのは,既に4年前に「裁判所の判決」が存在し,それに基づく契約の成立を今回確認し(①の点),したがって,4年前に成立した受信契約に基づいて,4年分の受信料の支払いを命じた(②の点)ということです。

これらの点は,判決自体にあたるのが一番なので,どこかで入手できたらまたそこでわかったことなどを書きたいと思います。

実際のところは判決にあたってみないとわからないのですが,「判決」という報道に接したときに弁護士がどのようにその報道を見て,考えているのかの一端のご紹介という趣旨で理解して頂ければ幸いです。

国選弁護と私選弁護



最近,ネットの広告で法律事務所のものが非常に目に付きます。

かつては,法律事務所の広告といえば,借金問題や離婚などの家庭問題のものが目立っていましたが,最近1年くらいは刑事弁護に関する広告が目立つようになった気がしています。

その中で,「国選弁護人に任せていては不安だが,私選弁護を私どもに任せてもらえれば安心」といった内容の広告も散見されます。

そこで,国選弁護と私選弁護の差異について私が感じたり考えたりしていることを書きたいと思います。

国選弁護人というのは,文字通り,国(裁判所)が選任した弁護人のことで,貧困その他の理由により私選弁護人がつけられない被疑者(犯罪をしたと疑われている人で刑事裁判になる前の人)や被告人(犯罪をしたと疑われて刑事裁判を起こされた<起訴された>人)に選任されます。

この場合,「この弁護士を国選弁護人にしてください。」という被疑者・被告人の選択権は法律上はないこと,また,一旦選任されれば,被疑者・被告人がその弁護士をクビにすることも出来ませんし(ただ,私選弁護人を選任すれば国選弁護人は解任されます),弁護士の側から「こんな人の弁護なんて,やってられない。」と言って辞めることも基本的には出来ません。

一方で,私選弁護人の場合は,好きな弁護士を選べますし,被疑者・被告人の方からクビにするのも弁護士が辞めるのも基本的には自由だと言えます。

そして,費用ですが,国選弁護と私選弁護を比較すれば,弁護士が頂くフィーは後者の方が相当高いといえますし,国選弁護の場合は,そもそも被疑者・被告人が自分で負担しなくてよい場合が多々あります。

このように,被疑者・被告人の側から見れば,場合によっては弁護士費用がタダであり,弁護士の側から見れば,受け取れるフィーが安いということで,国選弁護は何だか「安かろう,悪かろう」のようにみえて,そのために「国選弁護人に任せていては不安だが,私選弁護を私どもに任せてもらえれば安心」といった広告が幅を利かせるのかもしれません。

実際,被疑者・被告人の中には、自分の弁護人が国選弁護人であるということに引け目を感じている方もいるようで,時々「国選なのに,勝手なことを言ってすみません。」みたいなことを言われることもあります。

しかし,私としては,国選弁護と私選弁護の違いは,「自由に選べるか否か」の点に尽きるのではないかと思っています。

私選弁護の方がフィーが高いのは,「自由に選べる」ことへの対価であって,「国選弁護以上に熱心に仕事をする」ことではないというのが私の考え方です。

似た例(といってよいか分かりませんが)で言えば,美容院に行ったときに,美容師さんを指名すると,指名料が必要な場合があると思いますが,その指名料に似ていると思います。

指名ではないお客さんだからといって,美容師さんが手を抜くことが(多分)ないのと同じく,私は国選弁護でも私選弁護でも,弁護活動として最善を尽くすという考えです。

それなら,何も高い金を払って私選弁護人に頼む必要などないと思われるかも知れません。

確かにそのとおりとも言えますが,先ほどの美容師さんの例で,「どうも相性があわないなあ。」というような場合もあるのと同様に,弁護士とも相性の合う,合わないがあるといえます。

また,美容師さんがいくら一生懸命やってくれても「どうも腕が悪いなあ・・・」と感じることがあるのと同様に,弁護士にも腕や経験の差があるのはいかんとも否定しがたい事実ですから,そのような場合には,私選弁護人に委ねることの意味があると言ってよいかも知れません。

その意味で,「国選弁護人に任せていては不安だが,私選弁護を私どもに任せてもらえれば安心」というのは,「国選弁護人」一般について言うならミスリードではあるが,国選弁護人ではなく,私選弁護人を選任した方がよい場合があるという意味では間違いとまでは言えない,というのが私の考えです。

ただ,私選弁護人を選任するとしても,広告で刑事弁護のスペシャリストを名乗って「私選弁護を私どもに任せてもらえれば安心」と言っている弁護士に任せて本当に安心なのかどうか,国選弁護ではなく私選弁護にするだけの価値があるのかどうかは分かりませんので,あしからず。

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